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2006年01月08日

ジャーナリストからの提言 「犬連れ登山者は、オーバーユースの監視役」

上記「山岳地域の自然保護に関するO-DOGの提言」の考え方の基本となっている論考です。森林生態学の視点から犬の同伴制限について考察しています。
項目は以下の5つです。
■オーバーユースとはなにか
■オーバーユースの判断基準
■自然環境の利用と保全法を確立しよう
■犬禁は「オーバーユースの隠れ蓑」?
■「オーバーユースの監視役」になろう

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最近、犬同伴を禁止する野外フィールドが増えてきました。しかし、禁止する理由を紐解いてみると、どうも胡散臭い。商売柄、疑うことはお手の物、いろいろと調べ、考察したものが以下の文章です。さて、結論を急ぐ前に、まずは、お勉強にお付き合いください。(11/30/2004)

オーバーユースとはなにか
今、山の自然環境を考える上で一番の問題となっているのは「オーバーユース」です。最近、よく耳にするこの言葉「オーバーユース」とはなんでしょうか?
人間が山林などの自然環境に足を踏み入れると、なんらかの影響を与えます。山道を歩いたその靴の下には、数千という土壌動物が生きています。山道を一歩進むごとに、その何割かは踏み潰されます。芽を出すはずだった植物の種もあるでしょう。わずか1歩の足跡でさえ、森に棲む多くの生命に影響を与えています。
しかし、人間が森の中に「1歩」足を踏み入れるだけで、森の自然が破壊されることは、実際にはありません。なぜなら、自然には、回復力が備わっているからです。
ただし、この「回復力」には、限度があります。
オーバーユースとは、「そのフィールドが持っている回復力の限度を越えて、大勢の人がそのフィールドに踏み込み、利用すること」と言えるでしょう。

続けてお勉強、第2段です。

オーバーユースの判断基準
四季に恵まれた日本の自然環境は様々です。
高山帯や高層湿原、干潟のように容易に破壊される環境もあれば、樹木が生い茂り森林土壌も厚い里山などのように人の侵入に強い環境もあります。また、同じような自然環境であっても利用者数や木道の有無など様々な要因によって、その地域がオーバーユースであるかどうかは変化します。
では、そのフィールドがオーバーユースであるかどうかの判断は、どのようにしたらいいのでしょうか?それは、その地域に本来あった原生的な植生、野生生物が減少しているかどうかを経年的に調べることでわかります。
人が数珠繋ぎとなる最盛期の北アルプス、年間200万人が訪れる立山の室堂や上高地などの観光地、ハイシーズンの週末の百名山などはオーバーユースの代表です。大勢の人が集中することで、植生の崩壊、大腸菌の検出、ゴミなどの問題が発生し、環境破壊が進んでいます。
これらの地域では、早急に何らかの形で利用者を制限し、自然の回復を待つ必要があります。また、その回復過程を時間をかけて観察することで、持続可能な自然環境の利用レベルとオーバーユースの境界が見えてくるでしょう。

そろそろ、核心部分に近づいてきました。

ここで、一つ注意したいのは、「経済が観光に大きく依存している地域ではオーバーユースが見過ごされがち」だということです。しかし観光地であればあるほど、本来、持続可能な自然環境の利用を心がける必要があるはずです。
水産業では、禁漁区や禁漁期間の設定などはもはや常識。持続的に自然を利用するという考え方で、すでに国内で実施されている施策が多々あります。観光業界でも、これらを参考に、有用な施策を考え、実施し、検証する時期に来ているのではないでしょうか。短期的な視点に立つことは自らの首を締めることになります。

自然環境の利用と保全法を確立しよう
今以上の自然環境の破壊を防ぐためには、行政、利用客の双方が、「オーバーユースにより環境破壊が進んでいる地域には人も犬も入山を控える」ことを考える時期に来ています。
もちろん、自然環境を保護するためにすべての入山を禁止しようと言っているのではありません。自然の大切さは、自然とのふれあいを通して学んでいくものです。
しかし、人も犬も自然環境に負担をかける生き物です。限られた自然を無秩序に利用し続けていれば、自然破壊は進む一方です。「種の多様性」が脅かされ、そのツケはやがて人間に跳ね返ってきます。
日本の限られた自然環境を大勢の人が享受するためには、自然環境を利用する地域と保全する地域とに分け、すべての人(研究目的を除く)の入山を禁止する「サンクチュアリ」の設定が必要だと考えます。
国内では、世界遺産となったことで白神山地の一部を林野庁が入山禁止としている例があります。しかし、残念ながら、その設定基準・方法が全国で応用できるものとなっているとは言えません。環境省、林野庁、文化庁(文化財保護法:特別天然記念物はこの法律で守られることになっています)といった縦割りの行政を横断して、環境保全に効果の有る施策が必要です。国の思惑や地元の利権に左右されることなく、自然環境を保全し利用する考え方が求められているのです。

お待たせしました。いよいよ核心部分です。

犬禁は「オーバーユースの隠れ蓑」?
鳥獣保護法で指定されている一部の保護エリアと私有地を除き、国立公園や国定公園などで犬の同伴を規制する法律は、現在の日本にはありません。 
しかし、ここ数年、「自然生態系の保護」を理由に、犬の同伴を禁止あるいは自粛するよう求めるフィールドが増えました。
生態学的な視点からは、このような主張に頷くわけにはいきません。人間と犬とが山を歩く場合、環境に対する負荷は人間のほうが大きいことは明らかだからです。(「付表」参照)
また、犬を禁止する理由は、犬以上に人間に当てはまることがほとんどです。例えば、上高地ビジターセンターは「上高地は野生動物のすみかですので、ペットの持ち込みはご遠慮ください」と呼びかけています。立山のアルペンルートでは、ペットの持ち込み禁止の理由を「貴重な野生の動植物が多数生息」としています。
これらが犬を禁止する理由ならば、人も禁止しなくてはならないでしょう。
実際、ペットの入山を禁止しても環境破壊は進んでいます。立山ではペットのみならず人間の入山も規制する必要があると指摘する専門家もいます。それでも人の入山を禁止することはありません。なぜならば、観光業に打撃を与えるからです。
犬の同伴禁止を謳っているエリアを見渡すと、その多くがオーバーユースの場所と重複していることに気付きます。
これらのことから、わたしは、
「オーバーユースを見て見ぬ振りしている地域が、ペットの入山を禁止することで、自然保護に配慮しているように見せかけているのではないか」
という危惧を持つようになりました。
そして、犬の同伴禁止を謳っているエリアとは、その地域の行政や管理者がオーバーユースであることを自ら告白し、かつ問題を野放しにしている地域だと感じています。

■「オーバーユースの監視役」になろう
それでは、こういった現状に対して、犬連れ登山者たちは、なにをすればよいのでしょうか?
わたしは「犬の同伴禁止推奨エリアで行われている施策に注目し、犬だけを禁止することで本当に持続的な自然環境の利用ができるのかどうかを検討すること」だと考えます。まず「そのフィールドの自然環境の破壊をもたらした本当の原因がオーバーユースであるにもかかわらず、犬を禁止することで自然保護をしているように見せかけている地域ではないかと疑ってみる」のです。
これは、犬連れ登山者だけが持つことのできる、自然環境の破壊を食い止めるための大切な視点です。そして、サンクチュアリの設定や一時的な入山禁止など、本当に環境保護に役立つ施策を訴えかけてゆくこと。それこそが、自然環境の保護保全における、犬連れ登山者の役割と言えるのではないでしょうか。
そのためにも、「犬の入山禁止を謳っているエリア」を把握することが必要です。その上で、犬連れ登山者は、犬を禁止する理由とその妥当性を慎重に見極めなくてはなりません。そして、これらの活動が、やがては、限りある日本の自然環境の保全と利用方法の確立につながって行くことを期待しています。
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著者:ピクパ
某大学大学院農学研究科森林生態学専攻。学生時代、ツキノワグマやカモシカなどの野生動物を観察する野生生物研究会に所属し、北は知床、大雪山から南は沖縄まで、日本各地で見聞を広める。
卒業後はその経験を活かしてテレビ局に入社。報道ディレクターとして農林水産業、地方行政、環境問題、スポーツドキュメンタリーなどの番組を手がける。
プライベートでは、人間と自然との関わりをテーマにダイビングやシーカヤック、沢登り、スキーなど、アウトドアで遊ぶことを趣味としている。家族は犬2、猫1、最後に妻1。
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投稿者 O-DOG_Staff : 2006年01月08日 17:27